「計画通りにいかないからこそ、人生はおもしろい」

2025年12月16日

—— “学び直し”と“再挑戦”を続ける、男女雇用機会均等法の一期生の今

テレビ業界の黄金期、20~30代をバラエティ番組制作の最前線で駆け抜けた鍵岡 尚代(かぎおか ひさよ)さん。1987年、男女雇用機会均等法の一期生として社会に出たが、まだ働き方のロールモデルが周囲にいない時代。育児と仕事の両立の姿も、キャリアの描き方も誰かの真似ではなく、常に自分で探しながら進んできた。阪神大震災で住まいを失う経験をしながらも、明るく、人の話に寄り添えるその性格を活かし、番組映像の管理システム開発、報道局の予算管理、広報、人事へと活躍の場を広げてきた。
培ってきたスキルの中心にあるのは、「人と向き合う力」。その原点は、10年前に取得したキャリアコンサルタント資格にある。

「当時、人事に異動したものの知識がなくて…東京で人事向けのキャリア研修に参加したんです。隣の席に座っていた大手総合消費財メーカーの人事部長に“向いてるから取ってみれば?”と言われたのが取得のきっかけ。人との出会いって、本当に大きいですよね」

■60歳で一度“遊んで暮らそう”と決めた

長年勤めた放送局を60歳で退職したのは、「老後の資金計画を立てたから」。制度を活用し11か月の休暇を取得し、米国・ポートランドへ短期留学するなど、長年の夢を実現した。

「だけど、暇って思ったよりつらいんです(笑)。家を磨いたり、手の込んだご飯を作ったり、好きなことをやっていたら…“人と会わないと体が腐りそう”って」

そんなとき、ふと目にしたのがパソナのサイト。かつて仕事で関わった際のパソナの良い印象を思い出し、軽い気持ちで登録ボタンを押した。
「ここからが、第二のキャリアの始まりでしたね。まさかまた働くとは思っていなかったけれど、社会とつながる感覚がすごく心地よかったんです」

■転機となったのは、人事での“面談の仕事”

▲就業中のダイハツ工業株式会社本社1階にて

現在は、ダイハツ工業株式会社で派遣タレントとして就業中。人事配属がきっかけで、キャリア相談・復職支援という「人の話を聴く仕事」と出会った。
現在はダイハツの職場復帰プログラムに携わり、さまざまな年代の方のメンタル面のサポートを行っている。

「始める前は“しんどいかな…”と思ったけど、夫に“まず行ってみたら?”と背中を押されて。面談で向き合うのは初めて会う方ばかりだけど、皆さんとてもいい方ばかり。働きやすい会社で、環境の力って本当に大きいと実感しています」

異業界で働く今、放送局時代とのギャップも新鮮だという。
「ずっと“変わった業界”にいたから(笑)。1907年から続く大阪の企業文化に触れて、“製造業の会社ってこうなんだ!”という驚きもあって。60代でまだこんな気づきがあるなんて面白いですよね。実は今通勤用に、ダイハツの車(ムーヴキャンバス)に乗っています。見た目もとってもかわいくてお気に入りなんです。ダイハツ愛も増しました。」

■家族・健康・働き方。“無理せず続ける”が私のスタイル

子育て期は「ご飯を一緒に食べること」を大切にしてきた。朝5時半に起き、朝食とお弁当、夕飯までを整える日々。
今は週2回の運動で心身のリズムをつくっている。
「爽快感を得られる運動が好き。ボクシングのミット打ちや、スタジオプログラムに行くと、ご飯も睡眠もすごく調子がいいんです」

コロナ期間中にはワインや日本酒の資格取得に挑戦したり、今年は万博ボランティアに参加したり、ガーデニングを楽しんだり、庭に植えたレモンが今年は50個もなりました——興味を持ったことにはまず飛び込んでみるタイプ。

「計画を立てすぎないのが私のモットー。人生って、予定通りにいかないことのほうが面白いから」

■同世代へのメッセージ

「学びたいと思ったときが、始めどき。年齢制限なんてないですよ。留学だって、資格取得だって、働き方だって。やりたいと思ったら、ぜひ挑戦してみてください。規制をかけず、まず“やってみる”。その一歩が、必ず新しい景色につながります」

60代で新しい環境に飛び込み、キャリアを再定義した鍵岡さん。
その生き方は、「働く」という行為に、人生を軽やかに豊かにしてくれるヒントを与えてくれる。