定年後に見つけた、もうひとつの働き方 ― 元大手鉄鋼マンたちの“セカンドキャリア”の今

2025年06月12日

この日、農園で働く派遣スタッフ、富山博次さん(71)と南茂美さん(72)が久しぶりに顔を合わせた。実はかつて同じ大手製鉄会社で汗を流していたという。今は共に、障がい者の就労支援施設の農園で野菜作りに汗を流している。

 

地域と人を支えるベテランふたり。鹿島での農園活動を通じて、
今も元気に活躍中の富山さん(右)と南さん(左)。
 

「働くことは、鍛えること」——富山博次さん(71)

「畑仕事は、最初は趣味だったんです。引退したらもう働かないって、強い決意まであった。でも鈴木前支店長に『ちょっとやってみないか』と誘われて。」

鹿島市在住の富山さんは、ナス、ピーマン、大根などの栽培を趣味で始めたのがきっかけで、2021年から農園での勤務を開始。最初は週5日、通し勤務で働いていたという。

現在は週2~3日、午前中の4時間勤務。夏場は朝6時半から、冬場は7時半からのスタートだ。

「自分の時間を有効に使って、野菜を作って、それを障がいを持った若者たちが一生懸命売ってくれる。その姿を見ると、もっと種類を増やしてあげたくなるんです。」

昼は農園で野菜を育て、夕方は中高生に少林寺拳法を指導。
富山さんの一日はまさに“二刀流”だ。どちらも「次の世代を育てる」という共通の思いがある。
朝は太陽の下で汗を流し、夕方は道場で真剣なまなざしを向ける生徒たちと向き合う——。
その姿は、技術や経験を惜しみなく伝えながら、自分自身も成長し続ける“現役”そのもの。
彼の知恵と体力、そして情熱が、昼も夜も、人と地域を支えている。

※関東高校少林寺拳法大会 団体演武3位 2024年12月 清真学園少林寺拳法部 
監督として(左上2番目が富山さん)


「脳を鍛える農作業」——南茂美さん(72)

南さんがこの仕事を始めたのは2022年6月。きっかけは、50年来の旧友であるパソナマスターズ鈴木前支店長からの熱烈な「口説き」だった。

「最初は働く気なんて全然なかったんです。でも家庭菜園で玉ねぎやトマトを作っていたら、だんだん面白くなってきて。」

「仕事というより、“トレーニング”ですね。畑では一輪車で堆肥を20回往復したりして、1万3千歩とか歩いているんですよ。Superfly聴きながらね(笑)」

仕事を「鍛える場」と言い切る南さんは、健康管理も徹底している。歩数や健康診断の数値を記録し、YouTubeや本で土壌や栽培方法も研究している。

南さんの持ち味は、理系の頭脳を活かした徹底した計画と分析力。予定と実績はExcelで管理、作業の段取りや効率化を考えるのが楽しいという。

「どうやったら短時間でできるか、考えるのが本当に面白い。指示されるより、自分で改善点を見つけるのが好きなんです。身体だけじゃなく、脳にも刺激がある。更に脳を鍛えるために、最近は寝る前に暗算までやっていますよ。」

現役時代はエネルギーセンターで勤務、今も現役感は健在。体を鍛えるだけでなく、「脳も鍛える」ために働いている。


「働くとは」——お二人にとっての意味

最後に、「働くとは?」という問いを投げかけた。

南さんは言う。「“考えること”です。作業を通じて、体も頭も動かす。こんなに面白いとは思わなかった。」

富山さんは静かに答える。「“自分の時間を生かすこと”。野菜を通して、誰かの役に立てるのがうれしい。」

お二人の働き方は、年齢や肩書を越え、「生きがい」と「支え合い」の形を映し出していた。